ソロ専用エクストリームクエスト「独極訓練:狂想と幻創」。
 僅かな時間があればこれに挑戦しているのだが、とあるどうしようもない壁に阻まれてしまう事が頻発していた。


 その壁の持ち主は、ステージ1の相手であるデウス・ヒューナスである。
『生まれ出でよ』
 そんな台詞の後に繰り出す竜巻。内容は周囲への三連続攻撃だ。その攻撃のヒット判定がデウス・ヒューナスの実装当時からおかしいのである。
 ある時は正常に三撃ヒットする。しかしある時は三撃全てがヒットしない。そして問題なのは、二撃目と三撃目のみがヒット判定を持つ場合だ。
 どうしても一撃目に備えてカウンターを狙ってしまう為、このおかしなヒット判定が発生すると二撃目をカウンター出来ない。ガードになってしまうか直撃を貰うかだ。
 そうなるとステージ1の「60秒間ダメージを受けるな」というオーダーを果たせないだけでなく、通常に比べて攻撃力が大幅に増しているのもあり、どうあっても致命傷になってしまう。
 ネットの海を彷徨っても、何処にもこの現象について言及しているものはない。回線かVITA環境の仕様か、どちらかが原因なのだろうが、回線については過負荷がかかっているようなかくついた動きにもならないので原因とは言い難く、最早どうする事も出来ないでいた。

 偶にその異常なヒットに邪魔されずに戦い続けられるのだが、また別の問題に悩まされた。
『これより、神罰を与える!』
 その台詞が主な合図となる大技があり、避けなければ戦闘不能は必至である。
 しかし、二回目にこれを使用する際に何も喋ってくれないのだ。前兆として瞬間移動もあるにはあるが、その後の初撃があまりに早い。接近していようものなら落雷でスタンを付与され、すぐさま茨の海に呑まれてしまう。

 各種レーションなど一切の攻撃強化はしていないものの、あまりに惨たらしい仕打ちをしてくるデウス・ヒューナスに心はすり減り、溜め息も出ない。
 そんなある日、なけなしのアイテムが入った倉庫を整理していてふと、交換アイテム「覇者の紋章」が多少確保出来る事に気付く。
 手持ちのカタナは「カザミノタチ」、まさに「覇者の紋章」をやっとの思いで集めて交換したものだ。その為に強化値は30が限界だった。NPCジグにカザミノタチを二個交換してもらい、アイテムラボで強化した結果、打撃力は27上昇する。小さな数値に過ぎない、そう思いもしたが、とある過去も私の脳裏を過った。

 そうして時間が出来たので「独極訓練:狂想と幻創」に赴いたものの、この日のコンディションは最悪である。私は掌の多汗症なのだが、それを抑制する薬を長い間使用出来ずにいたので症状が再発していた。加えて久々すぎるこのクエストに緊張したのか、手が大仰に震えてしまう。滑ってVITAを取り落としそうになった隙にとどめを刺されるという、何とも情けない負け方を続けていた。
 多汗症は今すぐ治すとはいかないが、震えの元凶である緊張は挑戦する事で慣らして解消するしかない。疲労困憊の中で挑戦を続けていると、ウィスパーが聞こえた。フレンドのKさんだ。
「エキスパート頑張ってる?」
 私は別段エキスパートの権利を得る為に挑戦しているのではないが、このクエストをその条件であるSランククリアしたいとは思っているので、半分当たり半分外れといったところか。それもありその言葉へ否定は返さず、挑戦し続けて這々の体である事を話した。
 聞けばKさんはファントムでの突破を試みているらしいが、ファントムに基本的なガード行動が無い事がつらい点だという。昔からジャストガードに頼りがちな私からすれば地獄にしか聞こえない。
 そんな会話をしつつ、私は肩を落として再度ステージ1の戦闘フィールドへと向かった。

(さっきから何か……変だ)
 負け続けているのだが、デウス・ヒューナスの動きが明らかにいつもとは違うのである。それにペースを崩されがちになり、倒れ伏しつつ首を傾げる。
 ステージオーダーも既に失敗しており、これはもう練習と割りきるしかあるまい。そんな思いで一回目の大技を越える。回復阻害効果も発生したので回復薬も使わずに、ひたすら攻撃し続けていた。
恐ろしき微々たる力01
『無駄な事を……』
 まだ二回目の大技も来ない侭に、その言葉ではっと我に返った時、デウス・ヒューナスの姿は消えていた。

 どうしようかと迷う。ろくにこの先の情報を覚えておらず、見るとステージ2ではカタナに耐性が付いており、「180秒以内に状態異常のエネミーを二体打倒」というオーダーを出される。
 足を踏み入れると早速ウォルガーダ三体、少ししてアラトロン・フェムトが出現した。ウォルガーダは水棲系のダーカーであり、確か状態異常ショックが効きやすい。そしてダーカーと敵対しているアラトロン・フェムトの攻撃は主にショックを付与する。これはアラトロン・フェムトを利用してウォルガーダをショック状態にしてもらおう、と考えたまでは良かったのかもしれない。
 バレットボウのフォトンアーツの調整をうっかり忘れ、有効打がペネトレイトアロウしかないという惨事になってしまい、かなりの長期戦を強いられる。当然ステージオーダーは失敗、回復薬も残り少なく満身創痍である。

 ステージ3では実質回復禁止で魔人・ファレグが相手のようだ。もう攻撃パターンも殆ど覚えていないが、その攻撃力の凄まじさだけは記憶に残っている。
 開幕からその攻撃を見事に受けてしまい、これは駄目だと思った瞬間我が目を疑った。出たダメージ数値は、以前ストーリークエスト「決闘」で戦った時よりも遥かに小さい。
 動揺していると足元が突然青く光り出す。其処にいる者へダメージを与えるトラップだ。そのダメージたるや、敵はこちらもだと言わんばかりの大ダメージである。
恐ろしき微々たる力02
 しっかり戦う事も侭ならずにすぐさま倒れたが、「成る程」と言葉を零した口は弓形だったのだろう。

 率直に言って以前よりも遥かに雑な操作だ。それでいてステージ1を初めて越えたのは、やはり打撃力が27上昇した事が大きい。
 あの時思い出した過去とは、マガツにソロで立ち向かった時の事だ。最終的に打撃力が18上昇した事も勝利の一因である。
 その微々たる数字が、強大な敵へ牙を剥く。その大切さを改めて感じた今回だった。