前回:「罪の感触 第1話



 全くの二次創作の文章です。
 また、流血・欠損表現が出てきます。
 どちらか一方でも苦手なかたは閲覧をお控え下さい。

 忘れられない。忘れてはならない。
 確かにこの手が失った、あの日々。




 まだクレイトが、彼ではなかった頃。
 襲いかかる刃とかち合い、火花飛び散る鍔迫り合いの中で見えた、微かに怯えた表情。それは戦いを望んでいない事を示していた。
 偶に出会う、レツィービートのダーカー製クローン。彼と静かに話を出来る事もあるが、こうしてただ刃を交えるしか出来ない事が殆どだった。
 やがてレツィービートが押し勝ち、クローンが空足を踏む。その隙を見逃さずに踏み込んでクローンに迫ると、同じようにカタナを持っていた右腕を肩から斬り飛ばした。
 衝撃で地に倒れたクローンが、幾許か自由を取り戻したのか急いて告げる。
「やれ」
 その意味はすぐに伝わり、レツィービートのカタナは残っていた手足を全て斬り落とす。
 瞬く間に噴き出す腥血が互いを濡らしたが、レツィービートはそれに構わず身動き出来ないクローンの傍らに屈む。するとクローンが弱々しく笑った。まだ生きているようだ。
「不便だな」
「……そうだな」
 噎せ返りそうな生臭さの中で、やっと言葉を交わす。
 命懸けでしか手に出来ない束の間に、レツィービートは憤りを感じるしかない。許された時間の終わりは即ち、クローンの命が尽きる時間でもある。
「あいつらも、こんな感じ、だったんだろうか……」
 苦しげな呼吸で絞り出されたクローンの言葉に、レツィービートは何も答えられなかった。
 クローンの言う人物は、エルダローエとツィーエの事である。まだ彼らが一人だった頃にレツィービートは、その手でエルダローエの命を奪ったのだ。
 血の帯を引いて転がるクローンの右腕が、あの時同じように斬り飛ばしたエルダローエの右腕と重なる。当時は幻覚を見せられていたが、斬った感触は本物だったのだろう。
 そして四肢を失ったクローンの姿が、胴から分断されて地面に転がっていた彼と重なった。
 ふとクローンが、血色の悪くなり始めた唇を開く。
「……済まないな」
「どうして」
「思い出させるしか、出来なくて」
 表情に出ていたのだろうか。クローンは悲しげにレツィービートを見詰めている。クローンには確かに感情があるのだ。でなければ案じるという事も無いだろう。
「俺は、お前を殺すのも嫌だ」
「自分だから、か?」
 震えた息の混じる声には首を横に振る。
「お前が優しいから」
 ともするとレツィービート自身へ言っている事になるが、そうではないのだとクローンは理解する。レツィービートもまた、クローンを案じているのだ。
「そうか……」
 呟くように言って、ふとクローンが表情を薄めた。
「目が、見えなくなって、きた……」
 それはクローンの命がいよいよ尽き始めた事を意味する。死の間際すら、こちらと何ら変わりないらしい。
「最後まで解る、のは……音なん、だな……」
 恐らく、何度も死して解った事なのだろう。それがどんなに恐ろしいのかを、レツィービートは知る事が出来ない。
 レツィービートは黙った侭、斬った断面に触れないよう気を付けながらクローンを起こす。そしてその頭を胸に抱いた。
 力強い、生命力を示す鼓動が聞こえてくる。
 クローンは息を一つ吐き出すと、役に立たなくなった目を閉じた。
 彼が生きている事に、生きている証に安堵する。もう二度と失いたくない、失わせたくない、その願いが今回も無事完遂された。それでいいのだと言い聞かせる。
 感覚が遠くなり、そろそろ音も聞こえなくなってきた時だ。
「……済まない」
 歪んだ声をぼんやりと認識して、それきりだった。
 やがて何もかもが赤黒い粒となって霧散する。確かに此処にいた彼は、もう何処にもいなかった。



 続き:「罪の感触 第3話