前回:「罪の感触 第2話



 全くの二次創作の文章です。
 また、流血・欠損表現が出てきます。
 どちらか一方でも苦手なかたは閲覧をお控え下さい。

 忘れられない。忘れてはならない。
 確かにこの手が失った、あの日々。




「お前は殺される感覚も、殺す感触も、知っているんだよな……」
 揺らめく湯気を見ながら、レツィービートが申し訳無さそうに告げる。
 クレイトは、エルダローエを手にかけ、レツィービートが手にかけるしかなかった、レツィービートそのものでもある。そして消滅したクローンの記憶を継ぎ足され、同時に再び転写されたレツィービートの記憶も継ぎ足されており、クローンを手にかけた記憶もその時得たと以前聞いた。
「ツィービー。お前だって辛かったんだろう」
 だからこそ、クレイトの言葉を否定出来ない。
「……どうして」
 レツィービートは唇を噛んで、無理矢理に出したような声で言った。
「もっと早く、お前の事に気付けなかったんだ……、お前が俺だって、お前が其処にいるって、早く……」
 今更意味は無いが、それでも後悔するしかなかった。レツィービートは歯を食い縛るが、抑えきれず呻いて涙を零す。そんなレツィービートをクレイトが咎めないのは、弱さ故のものではないと理解しているからだ。
 クレイトは不意に席を立つと、レツィービートの傍らに立つ。そっと腕を伸ばすと、レツィービートを胸に抱いた。
「覚えていないかもしれないけれど……こうしてもらった時、安心したんだ。生きている音がして」
 言われて意識すると、心音が確かに聞こえる。クレイトが言う時をレツィービートも思い出し、声を絞り出した。
「済まない……」
「いいんだ。お前のそういうところが、俺を救ってくれたんだから」
 ずっと見てきたレツィービートの悲しげな表情が、クローン個人に対しての情を物語っていた。限られた存在でしかいられなかった自分がクレイトとしての存在を手に出来たのも、レツィービートが彼を認める心と強い意志を持っていたからだ。
「なあ、クレ」
 死の淵に何度も立ったクレイトがこうして生きているのは、奇跡という酷く不安定なものでしかなかったのだろうとレツィービートは思う。
「この辛さは……忘れられないという罪と、忘れちゃいけないという罰なんだと思ってる」
 それは両人が抱えるものなのだろう。互いに、贖罪をどうすれば出来るのか解らない侭、今を生きている。困惑しながら日々を重ねてきた。
「でも、赦されなくても、いいとも思うんだ……」
 エルダローエとツィーエも、クレイトも、あの出来事があって此処にいる。苦痛の中、微かにある安心感だった。
 レツィービートの言葉を聞いて、クレイトはレツィービートの頭を撫でる。
「そうかもしれないな」
 今際の際を思い出しながら、今此処にある感触を確かめていた。