全くの二次創作の文章です。苦手なかたは閲覧をお控え下さい。
 物語「ひとりぼっちぐらし」、及びフレンドさん作スピンオフ「ぼっちのだらぐらし」の後日談です。

 自分が原因で色々な事が起こり、さてどうしたものか。




 驚きの声と共に顔が青褪めていく。手にしていた箸をもう少しで落としていただろう。
「俺……大変な事を……」
 実際に体調が良くない期間もあったらしいが、それを踏まえても血の気の引いた顔で声を絞り出す。それを見てツィーエが慌てて口を開いた。
「クレ兄貴っ、アメさん達が帰れねえ訳じゃねえんすよ、そんなに心配したらアメさん達も不安っすよ」
「だけど、俺の所為で他所様にまで迷惑を……」
 その様子を不安そうに見遣るエルダローエにも視線を向けず、クレイトの表情は固まったように変わらない。
 久し振りに皆で夕飯を食べながら、互いにこれまでどうしていたかを話し合っていた時だ。帰還時に配られた整理券の話になり、レツィービート達は前から付き合いのあるアメジスト達とそれを交換して早めに帰宅出来たらしい。問題はその交換理由だった。
 時を遡る事、事件当日。避難所へ向かう為の整理券が配られたのだが、アメジストの同居人エルルクは本来大きな番号であり、それを同じく同居人のメメント・森と交換して早めに避難所へと向かった。しかし交換したメメントはシステムダウンに巻き込まれ、クレイトと同じくアークスシップに取り残されたのだという。
 クレイトの元に少しでも早く戻らせてやりたい。メメントがやりたかったであろう行為を代わりにしたい、そんなエルルクの強い要望にレツィービート達も折れるしかなく、整理券を交換した。
 アメジスト達、ひいては同じ状況だったメメントにまで心配をかけたという事実に、クレイトは申し訳も立たず慄くばかりだった。
「クレ。其処は落ち込むんじゃなくて、お礼の仕方を考えたらいいんじゃないか?」
 レツィービートがそっと言うと、クレイトの表情へ僅かに安心が戻る。
「そう、か……。そうだよな、そうしてみる」
『おくりものするの?』
 クレイトによく似ている小人、くれすけが筆談用のホワイトボードで尋ねると、クレイトは一つ頷いた。
「うん。今はまだ品揃えが悪いだろうから……そうだな、一週間くらいしたら買い物に行ってくる」
『ついていっていい?』
『ぼくもいきたいな』
『ぼくもー』
『ぼくも!』
 次々に四人分、つまるところすけてっとのホワイトボードが提示される。少しでもクレイトを一人にさせまいとしているのだろうか。
「はは、じゃあ付き合ってもらおうかな」
 笑顔が戻ったクレイトに、見守っていた三人は密かに安堵した。



 一週間も経つとアークスとしての任務の日々も戻り、流通も落ち着いてきたようだ。任務を終えて帰宅したクレイトは、良い頃合いだろうとすけてっとを連れて買い物へと出かける。
 迷子にならないよう常に前を歩く小さな四人組の背中が、心無しか前よりも頼もしく見える。離れていた間にすけてっとが成長したのか、自分が淋しがりになってしまったのかは判断が付かなかったが、今が嬉しい事には変わりなかった。
 アメジスト宅の構成を考え、礼の品は誰もが食べられそうな焼き菓子にしようと決める。
 様々な詰め合わせのものを悩んだ末に選んで買い物を済ませると、そろそろ夕飯時だった。帰って食事の支度をしようと思った矢先、通信が入った事を知らせるアラームが鳴る。送信者を見るとレツィービートが表示されていた。
「どうした?」
「今日はちょっと遅くなりそうで、エルとツィーエもそうらしい。俺達は何か適当に食べて帰るから、そっちも何か食べておいてくれ」
「ああ、解った。気を付けてな」
「有り難う。じゃあ行ってくる」
 通信を終えて目線を足元に落とすと、すけてっとが足元に集まっていた。心無しか不安そうだ。
「三人共帰りが遅いから、適当に何か食べておいてくれって」
『おうちでたべる? おそとでたべる?』
 すけてっとの質問に一旦は悩んだものの、ふと浮かんだ場所があった。
「丁度行きたいところがあるんだが……」



 定食屋の扉を開けた瞬間にその声は飛んできた。
「って、本人来たあー!?」
 酷く顔色は悪いが、それは元々である。カウンター席には酒瓶とその肴が置かれているが、酒が何本目かは窺い知れなかった。
「メメさん! お久し振りです」
『こんばんは!』
「久し振り! てっちゃんも! 元気そうで良かったー!」
 再会出来たメメントから促される侭に、隣の席に着く。すけてっとはテーブルの上だが、いつものように店員へ断りを入れてからタオルを敷いて飛び乗った。
「今ね、店長さんとクレ君の話してたとこ」
「えっ」
 クレイトがこの定食屋を選んだのは、システムダウンの際に世話になった店主へ挨拶をしたかった為でもある。しかしよもやクレイト自身が話題に上がるなど、一体何があったのだろうか。
 不思議に思うクレイトへ、メメントが上機嫌に答えをくれた。
「クレ君さ、システムダウンしてたあの時、喧嘩の仲裁に入ったでしょ」
「見ていたんですか!?」
「ううん、俺は声を聞いただけ。でも店長さんは見えたってさ」
「そうなんですか……?」
 恐る恐る店主を見遣ると、カウンターの向こう側で穏和な笑みが返った。
「よく頑張ったね」
「あの、あれは、言葉をお借りしてしまって……」
「君が出来る事をして丸く収めたんだから、そんな事は気にしないでいいんだよ」
「あ……有り難うございます……」
『くれぱぱ、かっこいい!』
「すけてっとまで……」
 赤面して縮こまるクレイトだが、その顔には笑顔があった。



 注文した定食を食べながら、クレイトはふと気付いた疑問をメメントへ尋ねてみる。
「あの時、メメさんは俺の姿は見えてなかったんですよね? どうして俺だって解ったんですか?」
 クレイトはレツィービートのクローンである。二人の声を聞き分けられる者はごく少数の筈なのだが、メメントはどう聞き分けたのかが気になったのだ。
「うんとね……クレ君の声のトーンって、物静かでちょっと硬めっていう感じ。ビート君も物静かだけど柔らかめかなー。聞く人が聞けば解る感じだよ?」
「そうなんですか……」
 クレイトが呟いた次の瞬間、メメントはある点に気付いて焦る。
「……あっ、ごめんっ! 硬めとか言われていい気しないよね……」
 言われてクレイトが落ち込んでいるように見えたのだろう。しかしクレイトは首を横に振る。
「いえ、そうじゃないんです」
「へ?」
「俺が俺として居るんだなって思ったら、嬉しくて」
 クローンという生い立ちは様々な障害をもたらしたが、クレイトは確実に個として確立している、その実感を得たのだ。メメントにはその全てを推し量る事は出来ないが、少なくとも眼前の笑顔は嘘ではない。
 ふと、食べる手を止めたくれすけがホワイトボードに綴る。
『くれぱぱのこえ、やさしいからすきー』
 その言葉に他の三人も頷く。
「ふふ、有り難う」
 笑顔のクレイトにメメントもこれまでの不安が無くなり、また元の日常が戻ってきた事を再確認した。
「いいねいいね、よーし、今日は嬉しいからもうちょい呑んじゃおー!」
 其処で店主からそれぞれに小鉢が出される。メメントには新たなつまみ、クレイト達には胡麻団子を一つずつだ。
「あれ?」
「これは……?」
「嬉しい事には便乗しないとね」
 全員が首を傾げたのに対し、店主は穏やかに告げた。



 礼の品を渡したところメメントは酷く遠慮したが、クレイトの押しに負けて最後には受け取ってくれた。
 メメントと帰り道を一緒に歩く。夜のロビーにも照明の明るさと活気が戻り、以前のような薄気味悪さは無い。
「うちまで徒歩で……!?」
「そう! でも俺ってば方向音痴なのよ……結果はお察しでね……」
 システムダウン時、メメントは何とかクレイトに会おうと苦心してくれたらしい。しかし結果として道に迷い、辿り着く事はかなわなかったのだという。
「其処までして頂いてしまって……申し訳無いです……」
「いーの、クレ君に会いたいって思ったのは俺なんだし。クレ君が元気でいてくれたらそれでいいの!」
 萎縮するクレイトへメメントが告げた言葉が刺さる思いだったが、栄養失調の事は黙っておく。
 其処で前を歩くくれすけが振り返ってホワイトボードを見せた。
『みんなげんきがいちばんだよね!』
「そそ、てっちゃんその通り! みんな元気になれて良かったよね、ほんと」
「そうですね……。元に戻って、良かったです」
 明るく穏やかに、皆が思い思いに過ごせる時。
 それが日常だという事実に、クレイトはまた安堵していた。