前回:「風の行き先 第1話



 全くの二次創作の文章です。苦手なかたは閲覧をお控えください。

 判明した事実は、怒りと悲しみと、希望を与えた。
 そして、希望は自由へと動き出す。




「カカゼ。お前は人、一つの命だ」
「それは、どういう事でしょう……?」
「お前には心がある。個としての意思があるんだ。お前は欠陥品なんかじゃなかった、心があるから、ただの機械にはなれなかったんだ」
「私が……私という一人であるという事ですか」
「そうだな。でもこの侭じゃ、外面は機械の侭だ。お前が生きたいかどうかで、俺は今からする事を決める」
「私は、私は……」






「クレイトさん!」
 帰宅途中、耐えきれなかったようにカカゼが叫ぶ。前を歩いていたクレイトが足を止め、振り返ったその表情は穏やかだった。
「どうして……どうして、あのような危険すぎる事をなさったんですか!」
 クレイトがあの会話を使って事実を世間に公表する事。それはクレイトの身を危険に晒す事でもあった。ダーカー製クローンという生い立ちは、いつ他人から牙を剥かれてもおかしくない、非常に危うく儚いものだ。
「さあ、どうしてなんだろうな」
「とぼけないでください!」
 カカゼの怒りの声にを聞いて、クレイトは困ったように笑う。
「いや、とぼけてはいないさ。本当に、どうしてなんだろうな。あんなに命が惜しかったのに」
 それを聞いてカカゼは歯噛みして俯いた。
「……怖いんです」
 絞り出した声は、まるで涙声のようだ。
「あなたが耐え抜いてやっと手にしたものを、全て失うなんて事は、あってはならないんですよ」
「ああ……、知ってたんだな、実験内容も」
「はい。隠していて済みませんでした」
 それにクレイトは首を横に振った。
「謝るのはこっちのほうだ。苦しい思いをさせたな」
「けれど、けれど、だからこそ……」
 するとクレイトが屈んで真っ直ぐにこちらを見詰め、その眼差しに思わず言葉を止めてしまう。
「そんな風に思ってくれるから、俺は命を懸けられたんだよ、カカゼ」



 翌日、クレイトは通信を受けた。カカゼを連れて開発部へ来いという内容だ。
 関係者以外立ち入り禁止の扉を、一時的に登録された生体認証で開けて開発部へと向かう。廊下の景色がアークスシップへ来た当時と似たようなものだったにもかかわらずクレイトの足取りがしっかりとしていたのは、あの頃と違って様々なものを手に出来たからだろう。
 やがて辿り着いた開発部の扉を開ける。其処では慌ただしく作業が行われており、騒がしい。張り詰めた気が緩まされる程の勢いだった。
「あっ」
 職員の一人がこちらに気が付いて声を上げる。白衣が若干汚れているのは長年の作業によるものか。隣にいた同僚らしき人物に声をかけて作業を中断し、駆け寄ってきた。
「済みません、ご覧の有り様ですがどうかご容赦を」
 想像していた態度と違い、クレイトは一瞬面食らいつつ応えた。どうやらこの人物が責任者らしい。
 足元に注意してくれ、と言われて室内を歩く。あちこちに荷が置かれて確かに煩雑としており、デスクに置いてある資料の山を崩さないようにもしながら歩いた。
 そうして連れられた場所は休憩室だ。応接室はあるらしいが現在使用中だと告げられた。
 クレイトが促される侭に休憩室のスツールに腰かけ、カカゼを膝に座らせたところで、向かいに座った職員が口を開いた。
「こんなところで済みませんね。さて……」
 固唾を呑んで見遣る二人を見て言葉を止める。
「まどろっこしいのはやめて結論から言いましょうか。カカゼさん、貴方をキャストとして身体を構成し直します」
「本当ですか……!?」
 クレイトが思わず返し、職員は頷いてから告げる。
「クレイトさん。貴方が心配しているような――例えば貴方の生い立ちとか、そういったものに私らはあんまり興味が無いんですよ……大きな声では言えませんがね。それよりも」
 職員の目がカカゼに向けられる。
「私らが、知らず知らずとはいえ『心』というものを作る事が出来た。これは開発部中で一大事だったんです。それに気付かずに廃棄しようとしていたとは、何とも愚かしい話ですよ。カカゼさんには、どんなに謝っても足りないくらいだ」
 予想だにしなかった言葉に茫然とするクレイトとカカゼを見て、職員は更に続けた。
「私らは危うく大事な『心』を殺すところだった。その大事な『心』に気付いてくれたのがクレイトさん、貴方だった。それは私らを救ってくれた事にもなっているんですよ。本当に有り難うございます。そして申し訳ありませんでした」
 そうして頭を下げた職員に、クレイトは込み上げるものを感じながら告げる。
「頭を上げてください。俺達は、俺達の為に行動したまでなんですから」
 言葉は責めるでもなく、クレイトの強さがあった。
「クレイトさんは……優しいかたなんですね」
「はい。とても」
 カカゼの補足に職員は深く頷く。その優しさが、『心』を救ったのだ。



 カカゼはキャストとして登録され、サポートパートナーは今度こそ機械、現時点のカカゼの姿をしたものが登録されるという。
 身体を再構成する為の作業は三日程かかるらしい。その事を呼びかけた時に職員達が示した気合いのある反応が、彼らの開発に対する、そしてカカゼに対する誠意を物語っていた。
「それでは、いってきます」
 この侭開発部に残るカカゼがクレイトに挨拶する。
「ああ。待ってるからな」
 屈んだクレイトは手を差し出す。それをカカゼが取ると、そっと両手で小さな手を包んだ。
「最初の頃、こうしましたね」
「あの時、漸くパートナーになれた気がしたな」
 カカゼは小さく笑い、クレイトに告げた。
「あなたのパートナーになれて、良かった」
 それは心からの笑顔だった。



 続き:「風の行き先 第3話