全くの二次創作の文章です。
 設定の全てが出てきます。また、少々過激な表現が散見されます。
 以上が苦手なかたは閲覧をお控えください。

 今を漂う惨劇の人へ、何が出来るだろうか。




■-1

 彼にとっては全てが仮初めなのだろう。見えるものも、聞こえるものも、触れるものも、その命さえも。
 それでも求めた。求め続けていた。そうして此処へと辿り着いた。
 そんな彼を、否定も拒絶も出来ない。求めるしか出来なかった。



 エルダローエは強化ガラス越しに階下の実験室を見ていた。
 研究員が実験室から送られてきたデータを見ている。内容は彼の身体強度や成分を解析した結果だろう。台で静かに横たわっている彼を切り刻もうとした機械が、砕けた丸鋸を回転させる力も失って引き下がっていく。
 以前クレイトが家族の許へ帰る為に受けた、拷問に等しい様々な実験を彼もまた、目的を同じくして受けている。しかし今回はより深刻なものにしか見えず、通常の者であれば深手を負ってとうに命を落としていると容易に想像出来た。
 だが彼は通常ではない。それどころかこの世界の大敵だ。その気になればこの世界を滅ぼしにかかるのだろう、かつての彼がそれを遂げてしまったように。



 【怨讐】と呼ばれるダークファルスの存在は誰も知らなかった。この世界では知る由もなかったからだ。
 【怨讐】は此処とは別の時空で生まれ、その結末には二通りあった。激闘の末に原因不明の自害を遂げる結末と、滅ぼし尽くして彼だけが其処に残る結末だ。今此処にいる彼は後者の結末から時空を越えてやってきた存在である。
 そして【怨讐】が生まれる事の無い時空が此処だ。だからこそ、エルダローエは此処にいる。
 彼自身にはもう理解出来ない、彼の記憶の中にあった言葉が耳に残っている。
「怨んでやる、全部」
 その腕に人の手によって事切れたエルダローエを抱えて、憎しみに呼応した闇をまとい、己はおろか側にいた二人をも闇に呑み込んで、絶叫する。
「復讐してやる! この世界に!」
 それがレツィービートの最後の姿だ。
 そうして起こった戦いは一方的なものだった。
 三者が混ざり合った【怨讐】は故郷の力を増幅させたようで、あらゆるものを溶解させる豪雨、突然の大規模爆発など、この世界では正体不明の超常現象としか判断出来ない力を操った。眷属はいないどころか、彼は同じ闇であるダーカーをも攻撃していた。全てを怨むたった一人に、全ては破壊されたのだ。
 力の中でも最も特徴的だったのが、他者を食らい己の力とする『咀嚼』と表現されたものだ。ダークファルス【双子】と決定的に違うのは原形を留めず吸収する部分である。造龍クローム・ドラゴンと類似するが、それよりも強力にして強大であり、遂に【深遠なる闇】すら呑み込まれてしまった。
 その果てに宇宙さえも呑み込み、無の中で彼は独りきり漂っていた。戻らないものを尚も求めて。



 結果が出た。
 身体構造、及びダーカー因子量、機器異常による計測不能。しかし侵食作用の一切は認められず。
 どのような実験も受けるが、侵食作用が認められなければ彼を解放し、個人としての権利を与える。条件を満たした以上、オラクル側も文句は言えないだろう。
 迎えに行くと、解放された彼はエルダローエへゆっくりと近付く。衣服で手足を拘束しているようで、実際はそのどちらも無い体は少し浮いている。
 その細すぎる体へ腕を広げると、素直に其処へ収まった。抱き留めた体がやけに軟らかいのは、無理矢理統合した肉塊で構成されている為だ。
 誰もが解っている。彼も理解しているだろう。帰りたかったのは此処ではなく、求めているものはこれではない。本当に求めているものは、もう二度と戻らない。
 それでも此処を選んだ彼へ、エルダローエは告げた。
「おかえりなさい」



 続き:「その向こうにある一つ 第2話