前回:「その向こうにある一つ 第2話



 全くの二次創作の文章です。
 設定の全てが出てきます。また、少々過激な表現が散見されます。
 以上が苦手なかたは閲覧をお控えください。

 今を漂う惨劇の人へ、何が出来るだろうか。




■-3

 彼の事はアスエント家に近しい人物にも伝わっている。今日はその一人であるヴィスレンがアスエント家を訪れていた。ツィーエとクレイト、ヴィスレンが任務を終わらせた後だが彼はまだ戻っておらず、会う事はかなわなかった。
「此処に来てからも何も食べようとしないし、寝たところも見た事がないんだ」
 彼の定位置だという場所を窓越しに見遣るヴィスレンへ、クレイトが温かい茶を差し出しながら告げる。茶を受け取ったヴィスレンは目線をベランダから外し、クレイトを見た。
「クレたちは、あのひとのことを、どうおもうの?」
「どうと言われたら、心配だな」
「あのひとは、クレたちのきもちを、えんりょしているのかもしれない」
「それはあるかもな。避けてはいるけれど、嫌そうじゃないし。それに……」
 クレイトは言葉を一度切って、ヴィスレンから目を逸らすように俯いた。
「相手が俺達だから、遠慮するしかないのかもしれない」
 その言葉にクレイト達が抱える苦さが含まれている事をヴィスレンは聞き逃さなかった。そして一部でも零れ落ちてしまえば、あとは其処から流れ出てくるだけだ。
「……俺達も俺達で甘えすぎているんだ。あの人がした事は、少なくともこの世界からすれば到底許される事じゃない。それでも、あの人を否定する事は俺達じゃ絶対に出来ない。もし否定したら、俺達は此処にも、何処にもいられなくなる。けれどこれは、ただの個人的なもので、我儘だ」
 世界から見れば自分達はあまりに矮小、卑小とまで言えるのかもしれない。そんなものが一つの世界を滅ぼした罪は重いと考えているのだろう。そんな自分達を全否定したくはない心が、恐らく重要である事もまた解りながら。
「済まない、愚痴になったな」
 溜め息混じりのクレイトへ、その背を押してやるようにヴィスレンは最後に残る事実を告げる。
「わがままで、いいとおもう。すきになるって、そういうことでしょう」



 クレイトとヴィスレンはどのような話をしているのだろう。良い案でも出てくれたらいいのだが。
 不意に服を引っ張られて、ツィーエは其処から離れていた意識を向ける。
「あーっごめんっ、何処まで描いたっけ」
 今は小さな子供達、すけてっとと絵を描いて遊んでいたのだ。無視してしまった事に思わず謝るが、すけてっとは敏感に動揺を感じ取ったようだ。ツィーエを縫いぐるみにしたような姿のつーすけがホワイトボードへ綴る。
『つーぱぱ、ぼくたちなら、だいじょうぶだよ』
「えっ、あー……、ごめんな、心配かけちまって」
 苦笑するツィーエに、つーすけは少し考えてからペンを動かした。
『ぱぱ、まえのぼくたちに、すこしにてるの』
 前に何も名前が付かないこの呼称は、彼の事を指しているようだ。
「前って、もしかして……」
 それにはれーすけ、えるすけ、くれすけの三人が答える。
『わるいものだったころの、ぼくたち』
『ぱぱのきもち、ちょっとだけわかるの』
『まえのぼくたちのきもちと、にてるの』
 その昔、すけてっとがまだ三人だった頃。彼らは世界から巨悪とされた種族だった。誰からも敵視される点では確かに彼と似ているが、気持ちとはどのようなものなのだろうか。
 そうして四人が一斉に書いたホワイトボードを見せた。
『そのときのぼくたちは、こわかったの』
『だれかと、みんなとなかよくしたかったけれど』
『ぼくたちが、わるいものだったから』
『だれも、ぼくたちとなかよくなんかしたくないって』
 誰もが敵視するという事は、誰もが存在を望まないという事でもある。存在を望まない事にはツィーエにも覚えがあった。全くの事故で生まれた自分の存在を認めてくれなかった周囲の心無い言葉に、存在が揺らぐまで追い詰められた事がある。
 つーすけが更に綴った。
『とってもさみしいけれど、だれもすきになっちゃいけないって、おもったの』
 すけてっとの言葉で、ツィーエは彼の葛藤を垣間見た気がした。



 遅くに任務が終わり、帰り道を歩いていたレツィービートとエルダローエはツィーエとクレイトから通信を受ける。相談があるという言葉にただならぬものを感じた二人は、帰宅して片付けもそこそこにリビングへと向かった。
 早速始まった話は四人を悩ませる。すけてっとは就寝時間なので参加こそ出来なかったが、応援の言葉があったという。そうして空腹も忘れて話し合った末、やっと結論が出た。
「これを伝えるのは、エル、お前に任せたい」
「えっ!?」
 レツィービートの言葉に他の二人も同意見のようで頷きがあった。驚いたエルダローエは半ば自問するように尋ねる。
「俺でいいんすかね……」
「お前だからいいんだろ?」
 ツィーエの後押しへ、更にクレイトが付け加えた。
「今あの人の近くにいられるのはお前しかいないんだ。……頼む」
 言葉の最後に託すものはあまりに重いが、託せる者はエルダローエしかいないのも事実だ。全員の思いを受け取り、エルダローエは力強く頷いた。



 続き:「その向こうにある一つ 第4話